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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)1994号 判決 1980年1月31日

控訴人 大阪府

右代表者知事 岸昌

右訴訟代理人弁護士 宇佐美明夫

右訴訟復代理人弁護士 今泉純一

右指定代理人 豊田庸

<ほか三名>

被控訴人 大杉禎胤

右訴訟代理人弁護士 井関和彦

同 藤原猛爾

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は被控訴人に対し金一一九三万四一一八円及びこれに対する昭和四八年一〇月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一・二審を通じこれを五分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

三  この判決は一項1に限り仮に執行することができる。

事実

一  控訴代理人は「1 原判決中控訴人の敗訴部分を取消す。2 被控訴人の請求を棄却する。3 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴代理人は「1 本件控訴を棄却する。2 控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決をそれぞれ求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に訂正・付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(訂正)

1  原判決三枚目表三行目の「薬局等の」の次に「配置の」を、同五枚目裏二行目の「違法な不」の次に「許」をそれぞれ挿入する。

2  同七枚目裏九行目の「第二六」を「第二五」と改め、同一一行目の末尾に「(いずれも昭和五二年五月四日に撮影された被控訴人居住の建物の写真である。)」を付加する。

(控訴人の主張)

1  控訴人代表者知事(以下、知事という。)及びその補助吏員(以下、両者合せて、知事らという。)は、被控訴人の本件許可申請に対する判断をなすに当り必要な事実調査を充分に行ったものであって、事実調査懈怠の過失はない。

すなわち、知事らは、本件不許可処分をするまでに、吉田治三吉(以下、吉田という。)の所有にかかる従前土地の仮換地を現地において見分し、同地上の建物の実状、従前土地建物に関する権利の変転の経過、仮換地との関係、被控訴人と吉田との権利関係の変遷等について充分な調査をした。

その結果知事らは、本件許可申請にかかわる基本的な事実関係として、被控訴人が従前土地上の賃借建物(以下、従前建物又は従前店舗という。)で営業中、従前土地建物が大阪市の施行する都市計画福島地区復興土地区画整理事業(以下、土地区画整理事業という。)の施行地区内にあったため大阪市から明渡を求められ、従前土地についてはいわゆる現地仮換地が行われ、仮換地が存するにかかわらず、従前建物の賃貸人吉田が仮換地上に従前建物を移転せず、また仮換地上に使用権を設定することをも強く拒否し、被控訴人にその明渡を求めた際、被控訴人は従前建物の使用に関する権利を主張しないまま、吉田の請求に応じ従前建物の明渡をする旨の和解調書を作成して従前建物の明渡をしたところ、即時に従前建物が取壊されたというものであること、被控訴人が本件許可申請するまでの事実経過の概要は別紙経過表(一)記載のとおりであり、右申請後知事の不許可処分までの事実経過の概要は同経過表(二)記載のとおりであること、吉田の所有にかかる従前土地と仮換地の異同、被控訴人の従前店舗の位置との関連及び仮換地上の建造物の現状からして仮換地上に空地がなく、被控訴人は仮換地上に従前店舗を移転できない状況にあったことを正確に把握していたものである。

2  知事らが条例二条五号について解釈上の誤りを犯したことに過失はない。

すなわち、知事らは、昭和四七年一一月二二日の最高裁判所大法廷判決にのっとって当時の薬事法六条二項、四項(これを準用する同法二六条二項)は合憲であって、同法及び条例三条によるいわゆる距離制限を適法、有効な規制と理解し、その執行に当っては、条例二条各号は三条の距離制限の適用のない例外的な場合を特に定めたものであるから、その解釈適用は厳格になし、みだりに拡張すべきではないとの基本的な見解に立ち、同五号については、「天災、土地の収用その他これに類する理由」により従前の店舗を他の場所に移転しなければならない場合に限定して適用されるもの、すなわち、「土地の収用その他これに類する理由」に該当する場合であっても、収用等により替地、仮換地、換地(以下、換地等という。)が存するときは換地等に移転する場合に限り同五号の適用があり、換地等の場所をさしおいて他の場所に移転する場合にはその適用がないとしてきた。また、一般的に薬事法六条一項各号に該当する場合であっても、同法五条一項の裁量許可を与えることができるから、知事らにおいても、裁量許可の基準として、移転が私的な理由によるものであっても、移転せざるをえない相当な理由があること等四つの要件を考慮して許否の判断をしてきた。

このような基本的な見解に基き、前記調査によって判明した事実のもとで、吉田所有の従前土地に対して仮換地が存するのに、被控訴人が仮換地の使用に関する権利主張をせず、訴訟上の和解によりこれを安易に放棄したことは、被控訴人は土地収用等を契機に他の場所へ薬局等の開設を企てようとした場合に当るから、条例二条五号の適用はなく、また前記裁量許可基準の要件にも該当しないと判断して知事は本件不許可処分を行った。右不許可処分は、昭和四八年九月二六日の大阪地方裁判所判決(昭和四四年(行ウ)第一〇九号行政処分取消請求事件)によって取消されることとなったが、知事らが本件不許可処分を行うに当ってした判断と右判決におけるそれとが異なる結論に至ったのは、同一事実に対する法的評価に相違があったことによるもので、知事らは右判決の判断に思い至らなかったことは事実ではあるが、本件不許可処分の当時条例の右の点に関する解釈適用についての先例、学説、通達等の基準が存在せず、前記のとおり法の基本たるいわゆる適配理念に忠実に例外規定は限定的に解釈すべきとの解釈基準にのっとって条例の解釈適用をして本件不許可処分をしたものであり、忠実な平均的公務員としての知事らに右判決と同じ判断をなすことを要求することは酷であって、知事らに条例の解釈適用についての過失はないというべきである。

3  仮に被控訴人が本件不許可処分によって医薬品一般販売業による得べかりし利益の喪失による損害を被っているとしても、その損害額は科学的に妥当な方法、資料によりその発生が相当の蓋然性のある事実を基礎として算定されなければならない。

(1) まず、被控訴人の得べかりし所得額は、信頼しうる各種統計資料や調査方法に基いて算定すべきである。

(2) そして、一般に損害賠償法理論における、被害者の被害回復のため加害者にどの程度の賠償額を支払わさせるのが右両者間の公平を維持するうえで妥当であるかという衡平の観点からすれば、被控訴人の総所得から所得税、住民税等の租税を控除した純所得を基礎として賠償額を決定すべきである。

(3) 次に、被控訴人は、店舗を開設して医薬品一般販売業を営むことを前提として得べかりし利益の喪失による損害の発生を主張しているものであるところ、被控訴人主張の店舗開設費二〇〇万円を要したから、これを賠償額から控除すべきである。

(4) また、被控訴人が医薬品一般販売業をなしうる期間は本件不許可処分の五日後、すなわち本件申請にかかる店舗が法定の構造・設備を失ったときまでであり、その間においても実際には他の何らかの職業について収入を得ていた筈のものであって、被控訴人の右販売業による純所得から同期間における現実の所得額を控除した残額を被控訴人の得べかりし利益額とすべきところ、被控訴人は右現実の所得額について主張・立証をしないから、結局本件不許可処分による被控訴人の得べかりし利益の喪失による損害額は不明であるというべきである。仮に被控訴人の右現実所得額を賃金センサスにより推定するのを相当としても、被控訴人の稼働地域は大阪府内と目されるから、これを前提として統計資料を使用すべきである。

(被控訴人の主張)

1  控訴人の前記1、2の主張は争う。

知事らは、被控訴人の本件許可申請に対する判断上必要な事実の調査を怠り、これがため知事は正確な事実認識をしないまま本件不許可処分を行ったものであり、また知事らはその際条例二条五号について厚生省等の行政庁部内の解釈基準にも反する著しく慎重さを欠いた安易な解釈をしたものであって、知事らに過失があったことは否定しえない。

本件不許可処分がなされた当時においては少くとも、薬事法六条二項、四項(これを準用する同法二六条二項)及び条例による規制は、それが薬局等の「過当競争による弊害が特に顕著に認められる場合についてのみ」、「必要かつ合理的な範囲にとどまる限り」において、憲法二二条に反しないと解すべきである(前掲最高裁判所判決)ところ、都道府県のいわゆる距離制限条例の制定につき厚生省が定めた準則に関する厚生省薬務局長通牒は、条例の制定は国民の営業の自由を制限することとなるから特に慎重な配慮を行うことを求めるとともに、許可申請者が土地の収用等を受けない場合であっても土地収用等に基く協議、和解等自己の責に帰せざる理由によって他に移転を余儀なくされる場合を適用除外例の一として掲げているし、また、東京都衛生局からの照会に対する厚生省薬務課長の回答は、「土地の収用による損失の補償が替地によってなされた場合、当該替地での営業でなければ条例の適用を免れない。しかし当該替地が薬局等の立地条件、その他を勘案して営業することが著しく困難と認められるときはこの限りではない。」としており、これら判例、通牒等に照しても、被控訴人の本件許可申請については条例二条五号の適用があると考えられることが明らかである。

2  同3の主張は争う。

(証拠)《省略》

理由

一  被控訴人が昭和四二年二月三日知事に対し、大阪市住吉区粉浜東ノ町五丁目一三九番地サカエスーパー住吉店一階の独立店舗(以下、本件店舗という。)を店舗として医薬品一般販売業の許可申請をしたが、知事が同年一二月五日被控訴人の右申請を店舗の設置場所が配置の適正を欠くとの理由で不許可にするとの本件不許可処分をしたこと、被控訴人が昭和四四年一二月本件不許可処分の違法を理由として同処分の取消を求める訴を大阪地方裁判所に提起し、同裁判所が昭和四八年九月二六日同処分を取消す旨の判決を言渡したところ、同判決が控訴なく確定したことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、特段の事情の認められない本件においては、本件不許可処分は違法であるといわなければならない。

二  そこで、知事が本件不許可処分をしたことにつき知事らに過失があったか否かについて判断する。

1  《証拠省略》を総合すると、被控訴人が本件許可申請をするに至るまでの経緯等として次の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  被控訴人は、昭和三二年三月に関西大学経済学部経済学科を卒業したものであるが、それより先の昭和二八年八月から昭和三二年八月頃まで大興薬局に、その頃から昭和三五年四月まで神戸のシンワ製薬にそれぞれ店員として勤務した後、大東薬品商事の商号で医薬品卸売業を自営し始め、その後昭和三六年四月一五日に小川光一(以下、小川という。)から大阪市福島区上福島北二丁目三七番地の一宅地一三二・五三坪(従前土地)上の木造瓦葺平家建事務所床面積一四・二五坪付属建物(1) 木造瓦葺平家建居宅床面積二〇・二三坪(2) 木造瓦葺平家建居宅床面積一三・九四坪(3) 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建倉庫床面積五・五一坪(以下、従前全建物という。)のうち右付属建物(2)の居宅(従前建物)を賃料一か月一万五〇〇〇円の約定で賃借し、同年七月から同建物を店舗として瑞穂薬品商会の商号で医薬品一般販売業を営んでいた。

なお、被控訴人が従前建物を賃借した当時従前土地、建物について既に小川が経営する合名会社小川組(以下、小川組という。)から西垣林業株式会社(以下、西垣林業という。)に対する所有権移転登記が経由されていたけれども、小川がその実質的な所有者であったことには変りなく、右移転登記は、小川組が西垣林業に対し負担していた債務の担保のために経由されたものであった。

(二)  被控訴人は、その後小川に対し合計約五〇〇万円を貸付け、その担保のため昭和三七年五月七日同人との間で従前土地、全建物の所有権を被控訴人に移転する旨の譲渡担保契約を締結し、翌八日右土地、建物について西垣林業から所有権移転登記を受け、その頃から小川に対し従前建物の賃料の支払をしなくなった。

(三)  被控訴人は、昭和三七年五月一〇日頃、従前土地が大阪市施行の土地区画整理事業の施行地区内にあるため、既に仮換地(上福島鷺洲工区三九ブロック符号二宅地八六・六三坪、道路予定地を除いた減歩仮換地で、昭和二五年六月一日付で当時の所有者であった小川組に対し仮換地指定がなされていた。)が指定されていて、従前建物の大部分が土地区画整理事業による道路予定地上にあることを知り、さらに同年一〇月頃大阪市職員から二、三年のうちに従前建物から立退くべきことを求められた。

(四)  大阪府(控訴人)は、昭和三八年一〇月二五日、昭和三八年法律第一三五号による改正後の薬事法(昭和三五年法律第一四五号)六条四項、二六条二項、四項、二八条四項の規定に基き薬局並びに一般販売業及び薬種商販売業の店舗(以下、薬局等という。)の設置の場所の配置の基準として「薬局等の配置の基準に関する条例」(条例)を制定し、薬局の開設、一般販売業、薬種商販売業の各許可申請につき許可を与えないことができる場合の配置基準を定めた。

(五)  小川は、昭和三九年一〇月頃被控訴人に対し前記の約五〇〇万円の借受金債務の大部分を返済し、被控訴人との間で前記譲渡担保契約を合意解約して、同月七日従前土地、全建物につき被控訴人から所有権移転登記を受けたものであるが、右返済資金を吉田から借受けたため、吉田に対し右借受金の弁済ができないときはこれに代えて従前土地、全建物の所有権を移転する旨の代物弁済の予約をなし、右同日右代物弁済予約を原因としてその所有権移転請求権仮登記を経由したところ、その頃には既に小川が経営する小川組が倒産していたため、吉田から早急に右借受金の弁済に代えて右土地、建物の所有権を譲渡するよう強く要求され、同年一二月一一日にはこれを承諾し、同月一四日売買を原因として吉田に対しその所有権移転登記を経由した。

吉田は、その頃から被控訴人がかねてより小川に対して賃料を支払っていなかったこと等を理由に、被控訴人が従前建物について賃借権のみならず使用借権を有することをも否定し、被控訴人に対し、改めて賃借権を設定することはもとより従前建物を仮換地上に移転して引続き使用することを拒絶し、同建物からの退去を強く求めていた。

なお、吉田は、かつてはやくざの親分で、当時でも吉田次郎長と自称して、やくざ関係者を使用したり、これらの者との付き合いがあった人物であるが、昭和四〇年三月一六日には小川に対し従前建物を除く全建物からの退去の強制執行をした。

(六)  昭和三九年末頃における従前土地、土地区画整理事業による道路予定地、同地上の従前全建物の位置及びその占有状況は、概ね別紙図面表示のとおりであり(但し同図面表示の北二モータープールは昭和四〇年五月頃建築されたものである。)、コピスター株式会社、斉光印刷が占有していた当時の建物は、軽量鉄骨ブロック造平家建建物で従前建物のすぐ北側に建っていて、その敷地を除くと、仮換地上に従前店舗を移転することは不可能であった。

(七)  このような事情からして、被控訴人は、吉田に対し仮換地上に従前建物の移転を要求してもこれを早期に実現できる見込は全くなく、訴訟を提起して右移転請求することは、吉田の人柄からしてむしろ逆に吉田から即時退去請求されるおそれが多分にあり、むしろ話合いによってできるだけ長い明渡猶予期間を得ることが実際上の得策であると判断し、かつ大阪市からの再三の退去要求に対する延引を計る意図もあって、吉田との間で昭和四〇年四月二八日に大阪簡易裁判所において従前建物を昭和四一年四月三〇日限り明渡す旨の即決和解をした。

吉田は、右和解後間もない同年五月頃従前土地上の従前建物を残してその余の建物を取壊したうえ、同地(仮換地及び道路予定地)及びその東側の大阪市、西川つたの各所有にかかる土地の上に軽量鉄骨造スレート葺平家建(一部二階建)の建物を建築し、同年七月一日以降同所で北二モータープールの名称で貸ガレージ業を営んでいた。

被控訴人は、前記明渡期限の昭和四一年四月三〇日になっても、店舗の移転先が確定せず、従前建物から移転できなかったので、吉田に対しその旨説明して了解を得、吉田との間で昭和四一年五月二〇日前記裁判所において右明渡期限を一年間猶予する旨の即決和解を成立させた。

(八)  被控訴人は、この間、店舗の移転先を探し求め、昭和三九年一月には大阪市北区小松原町のOS劇場横で、昭和四〇年二月には大阪市福島区茶園町のスーパーマーケット(以下、スーパーという。)内で店舗を開設すべく計画し、いずれの場合にも控訴人の衛生部薬務課の奥村五郎(以下、奥村という。)、紅清隆(以下、紅という。)らに許可の見込等について事前に相談したところ、奥村らから被控訴人が従前建物から他の場所へ移転して医薬品一般販売業を営むにつき条例二条五号の適用があり、いわゆる距離制限を受けない見込である旨の非公式の回答を得ていたが、前者(OS横)への移転については、紅らから同所付近での店舗開設の許可申請が既に数件あって被控訴人がこれに加わると錯綜するので申請を断念するよう勧告されたのでこれに従い、また後者(茶園町スーパー内)への移転については、知事に対し申請書を提出して受理され、紅らからは許可の内意まで示されていたが、右スーパーの所有者から医薬品一般販売業の権利の譲渡を求められたため、同スーパー内での店舗開設を断念して前記許可申請を取下げ、右各移転計画はいずれも実現を見るに至らなかった。

(九)  被控訴人は、昭和四一年八月頃サカエスーパー住吉店の所有者であるサカエ薬品株式会社(現社名は株式会社サカエ、以下株式会社サカエという。)の代表取締役中内博(以下、中内という。)から本件店舗賃貸の内諾を得た(昭和四一年一一月二八日付で右賃貸借契約書が作成された。)ので本件店舗への移転を計画し、紅らに前同様の相談をしたところ、同人らから、店舗の構造をサカエスーパーの店舗とは独立したものにし、住吉区内の地元同業者と乱売競争にならないよう良く話合いをするようにとの指導を受けたので、同年一〇月頃大阪府薬剤師会住吉区支部長及び住吉薬業事業協同組合長と懇談し、あるいは本件店舗周辺の薬局等へ挨拶に行く等し、同年一一月一三日付で本件店舗での許可申請書を紅らに提出したところ、紅らから、本件店舗の構造変更を指導されるとともに、昭和四二年一月末までに本件店舗設置のうえ必要関係書類を完備して正式に許可申請をすれば早急に許可する旨の内意を示されたので、翌昭和四二年一月一五日頃から本件店舗の建築工事にかかり、同年二月三日本件店舗を完成し、必要関係書類を添付して正式に同年二月三日付で本件許可申請書を知事に提出した。

なお、被控訴人は、昭和四一年になっても大阪市職員から再三従前建物からの退去勧告を受けていたうえ、従前建物は当時既に老朽化し、倒壊の危険もあり、また近いうちに店舗移転につき知事の許可を受けられる見込もあったことから、同年一〇月頃従前建物の取壊しに同意し、同建物は同年一一月一〇日大阪市によって取壊された。

そこで被控訴人は、その頃吉田との話合いにより、吉田の所有にかかる前記北二モータープールの建物の屋根上に木造バラック造平家建の建物を応急的に建てて移転先が見つかるまで臨時的に居住することとしたが、同建物は医薬品一般販売業を営みうる構造・設備ではなかったので、知事に対し休止届を提出しようとしたところ、奥村から廃止届を提出するよう勧告され、結局昭和四一年一二月一〇日付で廃止届を出したが、その際、本件許可申請につき右廃止届は支障とはならない教示を受けた。

2  原判決の理由三2、3(一〇枚目裏一〇行目から一五枚目表四行目まで)の原審の説示は、次に付加・訂正するほか、当裁判所もこれを正当と判断するものであって、その理由記載を引用する。

(一)  原判決一〇枚目裏一〇行目の「成立に争いのない」から同一一枚目表四行目の「および」までを「前掲甲第一号証の一ないし一七、第一六、第二〇号証、第二八号証の一、二、乙第一四、第一八、第一九号証、第二五号証の一のイ、ロ、同二のイ、ロ、ハ、同三、第二六号証の一ないし三、第二七、第二八号証、第二九号証の一ないし四、同五のイ、ロ、ハ、ニ、第三一、第三二号証、成立に争いのない甲第一六ないし第一九号証、乙第二二号証の一、二、第三〇号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第四、第一〇ないし第一三号証、原審における被控訴本人の尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二二ないし第二四号証、第二五ないし第二七号証の各一、二、原審証人豊田庸、当審証人奥村五郎の各証言並びに原審及び当審における」と、一一枚目表末行の「九五」を「九九」とそれぞれ改め、同裏九行目の「土地」を削除する。

(二)  同一二枚目表九行目の「原告についての」を「従前土地に対する」と、同裏二行目の「としては、」から同四行目の「であると」までを「担当者は、昭和四二年四月二四日頃被控訴人は仮換地上へ店舗を移転すべきである旨の理由書を付」とそれぞれ改め、同八行目の「建築し、」の次に「かつ同人は仮換地を被控訴人に賃貸又は使用貸借により使用させる意思は全くなく(右上申書には右趣旨の吉田作成名義の覚書が添付されていた。)、」を挿入する。

(三)  同一三枚目表初行の「陳述書をもって」の次に「概ね」を、同末行の「再度照会」の次に「する必要があると判断し、薬務課長が小委員会の指示に従い昭和四二年一〇月二〇日付で被控訴人に対し右三点について照会」を、同裏初行の「原告から」の次に「昭和四二年一〇月三一日付の回答書及び同年一一月六日付の補足書をもって、」をそれぞれ挿入する。

(四)  同一四枚目表六行目の「以上1、2のとおり認められる。」を削除し、同裏八、九行目の「に建築されているモータープールの現況所有者たる吉田治三吉の」を「の前記各建物の現況、その敷地の範囲、従前土地所有者たる吉田の従前建物の移転及び」と改め、同末行の「行なわず」の次に「(被控訴人が大阪市から移転補償を受けていないことに関して、知事らが、大阪市に対し被控訴人が移転補償請求権を有するのか、有するとすればその補償額はいくらであったかについての大阪市の取扱い等を調査したことを認めるに足りる証拠はない。《証拠省略》によれば、控訴人の薬務課吏員紅が大阪市区画整理局の審査係長織田和光から事情聴取し、その結果一般的に土地区画整理事業により移転を求められる土地所有者ら当該土地についての権利者は仮換地へ移転する権利を有し、その移転につき補償がなされることを確認したことが認められるものの、その際被控訴人のような移転対象とされた当該土地上の建物の使用権者にすぎない者の権利関係及び被控訴人に対する大阪市の取扱いについて事情聴取がなされたことは窺れない。)」を挿入する。

3  控訴人は、当審において、知事は、本件不許可処分をなすに当っては必要な事実調査を充分行ない、事実関係を正確に把握していたものである旨主張するが、前記認定事実にかんがみると、被控訴人の本件許可申請の許否はいつに条例二条五号の適用の有無いかんにかかっていたのであるから、同号に定める除外事由の存否の判断をなすに際しては、被控訴人が吉田と前記和解をするに至った経緯及びその理由、大阪市からの移転補償を受けていないことの理由を明らかにし、これを慎重に検討することが必須不可欠の事項であったというべきところ、知事らは、被控訴人から右和解をしたこと等は真にやむをえないものであった旨の陳述書及び疎明資料が提出されていたのに、右の点については格別の事実調査をしないまま被控訴人の陳述書等を信用するに足りないものと速断し、何らの具体的根拠もないのに被控訴人は安易に権利放棄をしたものであることが窺れると事実認定の下に、条例二条五号の除外事由は存しないとの判断をしたものであるから、本件許可申請に対する判断上最も重要というべき事項についての必要な調査を怠り、そのため誤った事実認定をしたというべきであって、この点において知事らに過失があったことは明らかであり、知事が薬事審議会の答申どおりに本件不許可処分を行ったものであることは右判断の妨げとはならない。

4  そうすると、地方公共団体たる控訴人の公権力の行使に当る知事らがその職務を行うについて過失があったから、控訴人は、国家賠償法一条により、本件不許可処分によって被控訴人が被った後記損害を賠償すべき義務がある。

三  次に、本件不許可処分と被控訴人の損害との相当因果関係の有無について判断する。

1  前記各事実によれば、被控訴人が昭和四二年二月三日に知事に対してした本件店舗への移転許可申請が許可となっていれば、被控訴人は、遅くとも本件不許可処分のあった昭和四二年一二月五日から少くとも昭和四八年一〇月一〇日(本件不許可処分の取消判決の確定日)までの間、本件店舗において医薬品一般販売業を営み、後記の如き利益を揚げえたことが確実であったのに、知事の本件不許可処分によって右販売業を営むことができず、そのため右得べかりし利益を喪失したものと認められるから、右得べかりし利益の喪失による損害は、知事の本件不許可処分と相当因果関係があるというべきである。

2  控訴人は、(一) 本件不許可処分が申請にかかる当該場所での営業を不許可としたものであって、被控訴人の営業を包括的に禁止したものではないのに、被控訴人はあえて本件以外に営業許可申請手続をしていないのであるから、本件不許可処分によって被控訴人に損害が発生する余地はない旨、(二) 本件不許可処分後申請にかかる本件店舗が取壊されて使用不可能となり、法令の定める構造・設備を欠くに至ったが、このような場合営業許可は与えられないから、店舗取壊しの後は被控訴人に損害の発生する余地はないし、仮に被控訴人に得べかりし利益の喪失による損害が発生したとしても、その損害額は本件不許可処分の五日後(右店舗取壊しの日)までについて発生すべかりし利益額に限られる旨、(三) 被控訴人が昭和四一年一二月に既に福島区の従前店舗での営業を廃止する旨届出をなし、それ以後は医薬品一般販売業を行いえず、被控訴人には営業の継続を前提とした損害は発生しない旨の各主張をして、被控訴人の前記期間の得べかりし利益の喪失による損害の全部又は一部は本件不許可処分と相当因果関係がない旨争うけれども、当時薬事法上、薬局等の開設は一般的に禁止され、許可を得た者のみが許可を得た店舗においてだけ適法に営業しうるのであって、被控訴人は他の場所で自由に営業しえたわけではなく、弁論の全趣旨により窺れる薬局等の開設許可申請手続が繁雑であって新店舗開設に相当の費用を要する事実のほか、前記認定の事実に照すと、被控訴人が本件店舗以外の場所での営業許可申請をしないで、本件不許可処分取消訴訟の結果を待ったことを不当とすることはできないし、《証拠省略》によれば、本件不許可処分がなされたためやむなく本件店舗が取壊されたものであり、被控訴人が自発的に営業を放棄したものではないことが認められ、また、前記認定の事実によれば、被控訴人は本件許可申請に先立って知事に対し従前店舗での営業の廃止届をしてはいるが、知事はそれを理由に本件不許可処分をしたものではなく、本件店舗の場所が薬局等の配置の基準に適合しないものとしたほかは、本件申請につきその他の許可要件に欠けるところはなかったものと判断したものであることが認められるから、控訴人の右(一)ないし(三)の各主張はいずれも採用しえない。

四  そこで、被控訴人の損害額を算定することとする。

1  被控訴人が昭和三二年に関西大学を卒業したこと及びそれより先の昭和二八年に大興薬局に就職し、その後従前店舗で医薬品一般販売業を営むに至るまでの経歴の概要は前記二1(一)記載のとおりであるところ、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人は、昭和三六年七月から昭和四一年一一月一〇日までの間従前店舗において瑞穂薬品商会の商号で医薬品一般販売業を営んでいたものであるところ、販売形態としては、当時業界で「一次卸」と呼ばれていた大手卸問屋から原則的に現金で薬品等を仕入れ、これをスーパー等の大規模小売業者、病院等へ大量販売する方式(外売りと呼ばれるもの)と従前店舗での店頭販売する方式(内売りと呼ばれるもの)を併用するもので、売上額は、昭和三七年頃一か月平均して一日約六五万円あり、そのうち約五〇万円が外売りによるもので、外売りの粗利益率約五パーセント相当額が全営業のほぼ純利益となっていたが、その後の売上額は漸減した。

(二)  被控訴人が予定し、本件不許可処分がなければ開店しえたことが確実であった本件店舗の位置、立地条件、営業内容は次のとおりである。

(1) サカエスーパー住吉店は、南海電鉄南海本線の住吉公園駅の北方約一〇〇メートルで、同上町線、同阪堺線の住吉駅の西方一〇〇メートル以内に位置し、その北方約一〇〇メートルのところに粉浜市場があるほか、近隣に人家や各種店舗が密集する商業地域内にある。

(2) 右住吉店付近は、南海電鉄南海本線等の電車交通のほか自動車交通も頻繁で、従来から人の往来が多く、大阪市内でも有数の商業活動が盛んな土地である。

(3) 本件店舗は、サカエスーパー住吉店の北側西入口(一階)の東脇にあって、同住吉店のなかでも最良の営業場所であり、面積は二一平方メートルである。年間の営業日数は正月休み等の五日を除く三六〇日で、販売商品は医薬品のみならず、医薬部外品、化粧品等の日用品を含む。

(三)  被控訴人は、従前店舗における営業においては外売りを主としていたが、昭和二八年から七年間は薬局店員として働き店頭小売りの経験があるほか、昭和四一年一一月一〇日までの医薬品一般販売業の営業を通じて医薬販売業界の事情に通暁し、豊富な知識・経験を有していたうえ、本件店舗の所有者である株式会社サカエの代表取締役である中内とは十数年来の知己の間柄であり、本件店舗での営業につき同人からの種々の援助を期待しうる関係にあった。

(四)  被控訴人は、本件店舗での営業につき、経営者としてこれを総括管理するほか、自ら必要な限り直接経理、営業等の業務を処理し、従業員としては、管理薬剤師一名、店員三名を雇用し、右業務に当らせる計画であった。

(五)  昭和四二年当時、株式会社サカエが経営するスーパーで知事から薬事法上の営業許可を得て医薬品を販売する薬品部のある店舗のうち、立地条件が住吉店と最も類似するものは元駒川店であったが、同店の薬品部は、その売場面積七二・九三平方メートル(本件店舗面積の三倍以上)従業員五名であって、被控訴人が予定していた本件店舗での営業よりやや大きな規模の営業をしており、また、住家の少い都心にある(当裁判所に顕著な事実である。)ことからして、立地条件が必ずしも住吉店に優るとはいえない平野町店の薬品部は、その売場面積二一・一二平方メートル、従業員二名であって、被控訴人が予定していた本件店舗での営業よりやや小さな規模の営業をしていて、右両店薬品部の昭和四二年から昭和四八年までの間における各年別の一日当り売上額及び純利益率は、別紙類似店舗営業成績一覧表記載のとおりであった。

以上の事実が認められ、乙第五六号証中の右認定に副わない部分は、同号証によって認められる株式会社サカエが経営するスーパー平野町店、戎橋店、元駒川店、吹田店、八尾店等の薬品部がいずれも医薬品のほか、医薬部外品、化粧品等を併売している事実並びに当審における被控訴本人の尋問の結果に照らしてにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  以上認定の事実を総合すると、控訴人がもし本件店舗で昭和四二年一二月五日から昭和四八年一〇月一〇日までの間、営業したとすると、一日当り平均三〇万円、年間(正月休み等の五日を除く三六〇日)平均一億〇八〇〇万円の売上を得て、右各年別に、前記類似店舗営業成績一覧表記載の平均純利益率による純利益を得ていたものと推認するのが相当であり、したがって、被控訴人は、本件不許可処分がなければ、本件店舗での医薬品、医薬部外品、化粧品等の販売営業により、右期間の各年において、別紙営業純利益一覧表記載のとおり純所得を得ていた筈であるというべきである。

被控訴人は、本件店舗での営業による得べかりし利益額につき、一日の売上額は三〇万円を下らず、月間の総売上額は九〇〇万円以上となるところ、粗利益率はその一五ないし二〇パーセントであり、諸経費は月額五三万円であるから、一か月当りの純利益額は八二万円ないし一二七万円であり、総純利益額は七〇〇〇万円を下らない旨主張するが、諸経費の金額が被控訴人の主張の如きものであることを認めるに足りる的確な証拠はなく(右主張に副う原審における被控訴本人の尋問の結果は、被控訴人の一応の予測程度のものであって、客観性を欠くから、到底措信しえない。)、かえって、《証拠省略》によれば、株式会社サカエのスーパー平野町店、戎橋店、元駒川店等の薬品部の営業と被控訴人の本件店舗での営業とは、前者が同会社経営のスーパーの一部門であるのに対して、後者が個人営業である点に相違はあるものの、被控訴人の本件店舗での営業の経費額は被控訴人の前記主張額を大幅に上回ることが推認され、したがって純利益額が被控訴人の前記主張のとおりであるとは認め難いから、被控訴人の右主張は採用することができない。なお、控訴人が当審において証拠として提出した大阪府の作成にかかる商業統計調査結果表等の各種統計資料は、その調査及び集計方法等が科学的で信頼するに足りるものであるとしても、調査対象を一定の区域、業種、規模、営業形態毎にまとめて調査・集計したものであるから、その性質上一般・平均化した結果が記載されることになることは避け難く、したがって、スーパー内の薬店にかかる本件事案には適切を欠くものというべきであり、また、当審証人豊田庸の証言並びにこれにより真正に成立したものと認められる乙第五七号証の一ないし六によれば、同書証は本件店舗の近隣の薬局等の営業実態に関する数値等を記載した書面であるが、右記載の売上額及び純利益率について、本件店舗の前記認定の数額を下回る薬局等がある半面、これを上回る薬局等もあることが認められるから、右各書証はいずれも前記認定の妨げとはならないものであり、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  ところで、《証拠省略》によれば、被控訴人は、本件不許可処分のあった昭和四二年一二月五日頃から昭和四三年八月頃までの間、中内の厚意により株式会社サカエ及びダイエーが経営するスーパーの店頭で青果物等の販売を行っていたところ、その頃交通事故に遭い、その傷害、後遺症のためしばらくの間仕事に就くことができず、昭和四四年一〇月八日頃から金融業を始めたが、業績が芳しくないためこれをやめ、その後は自動車運転手をして収入を得ていることが認められるところ、被控訴人が本件店舗での医薬品一般販売業を営んでいたとすれば、右現実の稼働による所得がなかった筈のものであるから、被控訴人の得べかりし利益の喪失による損害賠償額の算定に当っては、前記認定の営業純利益額から右現実の稼働による所得額を控除することを要するというべきである。

しかし右期間における被控訴人の所得額がいくらであったかについては直接的な証拠はないところ、控訴人は、被控訴人が本件不許可処分後現実に稼働していながら、その所得額についての主張・立証をしないから、得べかりし利益の喪失による損害額は不明であるというべきである旨主張するが、被控訴人の右所得額については、これを後記のように推認することができるし、また被控訴人がこれを主張・立証すべき責任があるとも解されないから、控訴人の右主張は失当であって採用に値しない。

しかして、被控訴人の前記経歴、本件不許可処分後の稼働状況にかんがみると、被控訴人は、本件不許可処分後に現実にした稼働により昭和四二年一二月五日から昭和四八年一〇月一〇日までの全期間を通じ、その存在が公知である労働大臣官房労働統計調査部(昭和四七年以降、統計情報部)の作成にかかる賃金構造基本統計調査報告書(乙第五二号証の二ないし八は昭和四二年から昭和四八年までの都道府県別のもの)中の各該当年度の都道府県別(大阪府)、産業計、企業規模計、年齢計(被控訴人が数度にわたって転職を余儀なくされている事実に照らし、年齢別の統計を用いることは相当でない。)の男子労働者の平均賃金相当額の所得があったと推認するのが相当であり、したがって、被控訴人の右各年度における総所得額は、別紙現実稼働による所得一覧表の「総(年)額」欄記載のとおりとなる。

そうすると、被控訴人の得べかりし利益額は、前記営業純利益総額一九〇三万〇九三五円から右現実稼働による所得総額計七〇九万六八一七円を減じた一一九三万四一一八円であると算定される。

4  控訴人は、被控訴人の本件不許可処分による損害賠償額を定めるにつきその所得額から所得税等の租税を控除すべきである旨主張するが、当裁判所は本件のような得べかりし利益の喪失による損害額の算定に当り営業収益に対する租税額を控除すべきではないと考える(最高裁判所昭和四五年七月二四日判決民集二四巻七号一一七七頁参照)ものであって、控訴人の右主張は採用しない。

また、控訴人は、被控訴人は本件店舗での営業をなすのに店舗開設費二〇〇万円を要したから、得べかりし利益額の算定に当ってはこれを控除すべきである旨主張するが、前叙の如く、被控訴人は、本件店舗での営業により、総売上額から右のような費用を含めた総経費を控除した最終的な収益として前記認定の総純利益を得たものと認められるのであって、これからさらに右店舗開設費二〇〇万円を控除すべきものでないことは明らかであるから、控訴人の右主張も採用し難い。

五  以上の次第で、控訴人は被控訴人に対し本件損害賠償として一一九三万四一一八円及びこれに対する損害発生後の昭和四八年一〇月一一日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、被控訴人の本訴請求は右の限度で正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきところ、これと異なる原判決は相当でなく本件控訴は一部理由があるから原判決を主文一項掲記のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 高山晨 大出晃之)

<以下省略>

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